2010年1月12日火曜日

マニフェストの虚妄


 後期高齢者医療制度に変わる新しい高齢者医療制度に関する厚労省素案が今朝の日経に報じられていた。

 それによると,新制度は,後期高齢者医療制度を廃止し,75歳以上の後期高齢者を65歳以上の前期高齢者と併せて国民健康保険(略称,国保)に加入させる,という。
 民主党は,昨夏の総選挙に際し,「後期高齢者医療制度を廃止し、国民皆保険を守る/年齢で差別する制度を廃止して,医療制度に対する国民の信頼を高め る」と公約に掲げていた(同党マニフェストの各論第21)。「年齢で差別する制度」とは75歳以上の後期高齢者だけを対象にした保険である後期高齢者医療制度そのものを指す。したがって,後期高齢者を現役世代と同じ国保に加入させることは「年齢で差別する制度を廃止」するという公約の実現のようにみえる。  
 
 他方で,日経によれば,前後期高齢者は国保には入りながら「現役世代とは別勘定とし」とある。しかし,これでは国民健康保険という同じ名称を用いているだけで,保険制度としては「年齢で差別する制度」そのものではないか?

 旧老人健康保険制度では,前期・後期高齢者は現役世代と同じ公的医療保険(健康保険<大企業の組合管掌健康保険,中小企業中心の協会けんぽ(旧称組合管掌健康保険>,共済組合,船員保険,国保)のいずれかに属していた。これに対して,2008年度からは後期高齢者だけがそれらの医療保険から脱退させられ,後期高齢者医療制度という独立の医療保険に加入させた。言い換えれば,独立の保険ではなく,後期高齢者の医療費を賄う財源に過ぎなかった老人保健制度を後期高齢者だけの「年齢で差別する」独立の保険とした点に後期高齢者医療制度の本質がある。これに対して,保険料の年金からの天引き,運営単位の市町村(国保)から都道府県への変更は技術的問題に過ぎない。保険料納付を銀行振り込みにするか,口座振替を認めるか,年金からの天引きにするか,それぞれ得失があり,いずれが優れているかは直ちには判断できない。また都道府県を運営単位にすることは新制度案にも維持されている。

 従来,老人医療費は,本人が窓口で支払う1割を除いた9割を,公費(国:都道府県:市町村が4:1:1)と医療保険で折半する仕組みになっていた。しかし,現役世代と同じ医療保険に属したままでは,高齢者と現役世代の負担比率が明確ではなく,高齢者の医療費節約意欲が削がれるからと,75際という「年齢で差別」して独立の保険制度,後期高齢者医療制度を発足してそちらに移行させた。新制度でも,本人が窓口で支払う1割を除いた9割を,公費(税金)と医療保険で折半するところまでは同じだが,後期高齢者医療制度がこの9割のうちの1割を支払うという負担区分,あるいは後期高齢者医療費の0.09%を負担するという負担利率が明確になった(本人窓口負担以外に)。これはたとえて言えば,各部屋に電気メーターが設置されておらず自治会でまとめて負担していた電気代を,各部屋にメーターを設置して応分負担を求めているに等しい。どちらが合理的かは国民がじっくり考えて判断すればよい問題であり,この場合,個別メーターの設置,すなわち部屋の利用実態(年齢)「で差別する」ことが直ちに不公正な仕組みとはいえない。

 民主党の社会保障専門家チームはこのことはよくわかっていたはずである。しかし,年金からの天引きや運営単位の変更による保険料アップに対する国民の一時的な不満に乗じて,「年齢で差別する制度を廃止」すると謳い,実際の提案は形だけ現役世代と同じ国保に属することにして,負担における「別勘定」は維持するというのでは国民の納得が得られるだろうか?財源が不足するから,給付を抑える,対象を限定する,廃止すると謳っていた暫定税率を維持するはいわば程度問題である。余裕があれば,マニフェスト通り実施した方が良いが,なければ縮小されても仕方がない。しかし,制度の本質的な点を廃止すると謳っておいて残すでは国民の政治不信が増しはしないか,懸念される。

 1月12日 「うかうかしていると何事もせずに終わる1日」だった。寝坊して10時前登校。久しぶりに「経済指標の解説」の編集に取り組んで呻吟しているうちに学部教育委員会。直前にゼミ生のS君来訪。冬休みのこと,進路のこと。委員会を終わってみれば,紀要論文第2校の校正,昨夏の教養教育ワークショップ分科会の記録起稿という2つの課題が新たに発生。事務によったのち自宅にて解説論文の校正。12時過ぎたところでお仕舞い。これでは寝坊するはずだ^^;。

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