2019年3月24日日曜日

目処がつくのか

 3月17-24日 スライドを作成していた。
 1つは,月末の八王子合宿での報告「熟練養成と賃金制度」のスライドだが,もう1つは先行きのテーマに関すること,あるいはもっと大きいテーマに関するスライドだ。

 報告では,これまで生産的労働概念を基軸にこんにちの多様な労働を整理してきた中で,商品サービスを供給しながら価値を形成しない労働を「もう1つの労働」として,賃労働の一類型として位置づけ,技能形成を促すのはどのような賃金形態か,またその賃金形態が現実の場で齎す非正規雇用の正規雇用との賃金格差を生み出す原因にもなっていることを解明しようとするものだ。

 しかし,従来の生産的労働概念再検討による多様な労働の理論的位置付けという自分のテーマからすれば,いささか小さな話だ。
 こんにちの多層化する労働の把捉につながる視角をより一層明確に打ち出そうとしているのが2つ目に取り組んだスライドのテーマだ。
 しかしながら,今以て形を見ていない。
 否,スライドの形で何でも作り替えているが,未だ説得的ではない。
 短い春休みのうちにもう少し目処を付けたいところだ

編集委員任期満了

会場となった駒沢大学246会館
16年12月から学会誌『季刊経済理論』の編集委員を務めてきたが,10回目の3月16日 の委員会で任期満了。

 編集委員会は,3カ月に一度開催され,毎回,投稿された論文の審査報告,直近に投稿された論文の担当者割振りと審査委員の提案,編集部に寄贈されたり推薦されたりした図書の書評者の提案,特集企画の提案を行なってきた。
 論文の審査報告といっても,依頼した2名の審査委員の報告書をまとめたうえで報告するわけだが,2名が揃って指摘する箇所もあれば,見落とされていると思われる箇所もあるので,補いつつ審査報告書を作成して報告している。
 その論文の担当は,上記のように,委員会内で分担したり,任期終了した委員の担当を引き継いだりしているが,必ずしも自分の専攻,主テーマとピッタリ一致するわけではない。編集委員は10名と限られており,基本的に全体を見る委員長と副委員長は外れるので,実際には8名で分担することになるからだ(副委員長がリリーフ参加するときもある) 。

 2年3カ月の間,自分の担当も含め,様々なテーマ,手法の研究に触れることができた事は,狭い範囲で研究しがち自分にとっては大いにためになった。
 今後の活動に活かしたい。

2019年3月10日日曜日

フォーカスのズレ

 この2週間,専ら学会の仕事に専念していた。
 目処が付いた今週末,ようやく八王子で開かれる研究合宿での報告「企業内養成熟練と賃金制度」の報告資料づくりに取りかかった。
 難航しているのは,元々の論文が難産の果てに産み出されたからだが,それは繰り返しになるので割愛^^;

 元々はこんにちの多様な労働とその処遇問題をどう捉えるか,という問題意識がある。
 一方に,日本企業は従業員の雇用が守られ,年功賃金のメンバーシップ型だが,女性の社会進出により企業本位の長時間労働は難しくなったし,低成長によりそのカバーできる範囲が狭まり,格差の激しい非正規雇用が若年層を中心に広がった。今後は,メンバーシップ型から職務に応じた処遇ないし企業組織,ジョブ型に切り替えるべきであり,幹部候補以外は職務と昇給が限定された限定正社員になる,という見方がある。
 この場合,職務ベースであってメンバーシップ制ではないから企業からの自立性が高く,会社人間ないし社畜的に私生活(どころか生命)を捧げること(過労死,自殺)もなくなる,ということであろう。

 会社人間,まして過労死・自殺を擁護するわけではまったくないが,上の認識の底に,かつての産業別労働組合に集うブルーカラーのイメージが念頭に置かれていないか,という疑問がある。流動性が高く,当然会社から自立している。
 
 しかし,こんにちの日本では非正規雇用も勤続期間が長い。
 『パートタイム労働者総合実態調査』(H28)によれば,その67.5%は有期契約であり,平均契約期間9.6ヶ月,平均更新回数9.2回である。非正規雇用にも同一企業への勤続傾向が認められるのである。元々勤続初給は日本だけの傾向ではない。しかし,その間の技能・知識の集積は認めれず,勤続昇給していない。

 不熟練労働者か,熟練労働者でもその技能・知識に企業特殊性がなく勤続昇給することもない,離職のコストを意識しないから企業からの自立意識の高い労働者か。
 企業への忠誠という意味ではなく,勤続昇給の傾向があり,離職しないわけではないが,離職のコストも意識している労働者か。
 こちらの関心は後者にある。教壇に立つ大学の卒業生のほとんどは後者になる,という認識があるからである。
 

ゆかりある場所で

 3月5日 午後,山形市漆山のポリテク山形にて「高齢・障害・求職者支援機構山形支部」の今年度2回目の運営協議会。
 3コーナーに分けて事務方より今年度事業計画の実施状況,来年度の事業計画の説明があった。当初,説明が終わっても特に質問もなく次の説明が続くという体だったが,全ての報告が終わると,委員から矢継ぎ早に質問が出され,事務方が丁寧に答え,滞りなく終了。

 漆山と言えば,退職前に癌に罹患した鈴木均教授(欧州経済論)が定年後,「晴耕雨読」の終の棲家として選ばれた土地だ。その先生も1年前の1月半ば逝去。改めて黙祷。

2019年3月3日日曜日

代わり映えしない週末

 2月半ば,貧困論へのアプローチについて勉強したきり,その後は,大学の業務や学会業務に追われ。
 週末は,例によって,近所のドトールコーヒーに午前,午後,夜と1日3回も顔を出し,合間にジムで気分転換の生活だった。
 代わり映えしない,とはこのことだ。

2019年3月2日土曜日

先月のこと

 後期の採点と成績評価に目処が付いた付いた2月半ば,関心を抱いていた貧困問題(へのアプローチの仕方)について考えたことを綴ってみたが,自ら読み返してみても冗長。あれこれ書き換えてみてもスッキリしない,やはり冗長。その後,様々な用事に追われ,月を越してしまった,

そこで,解説をなるべく省いて,何をしたか,どう考えたか要点だけ記しておく。

1.昨秋の経済理論学会全国大会(14/10/2018,立命館大学びわこ・くさつキャンパス)の共通論題「転換する資本主義と政治経済学の射程---リーマンショック10年題」に違和感を覚えたのがきっかけ。
印象を一言で語ると,「全般的危機論」(失礼!)。

2.ようやく時間の取れた2月半ば,共通論題の報告の1つ,橋本健二氏の「現代日本における階級問題の変容」や同氏の『新・日本の階級社会』(講談社現代新書,2018)も読み返し,ノートを取ってみた。
上の違和感は橋本報告に対してではないが,階層・階級調査に基づく報告なので現状認識を検証しやすいと考えた。

3.「非正規雇用ーパート主婦」(2015年調査で928.7万人)は,端的には貧困率が高いという点で他の四階級(資本家階級,新旧中間階級,労働者階級)と異なる特徴を有するため,被用者ではあるが別の階級「アンダークラス」と規定されているが*,その具体的特徴を語る際には,「高齢者が多い」「女性では離死別者が多い」など生活保護受給者**の属性に寄せている感がある。
*労働者階級内に異質なアンダークラスが出現し,四階級が五階級化している,というのが氏のいう「新・階級社会」の意味。
**被保護者の世帯分類では高齢者世帯が5割を超えており,しかもその約9割が単身世帯。
4.他方,大学生の行く末である労働者階級や新中間階級に関する分析はアッサリしている。
氏の分類では,新中間階級は管理的・専門的職業従事者ばかりでなく,男性正規労働者の事務職も含まれる。したがって,アンダークラス以外の働者階級はブルーカラー正規労働者,女性正規労働者事務職,およびパート主婦となる。

 労働者階級は「ほとんど貧困とは無縁な」で済まされている感がある。
 もちろん,所得以外に,階層意識,支持政党を始めとする政治意識,仕事や生活に対する満足度等の調査結果も分析されているが,「雇用に伴う問題」は満足度などの単一の指標ではすくい取れないであろう。

 例えば,裁量労働制が適用されている職種もそうだが,そうでない職種はなおさら仕事における裁量性が乏しいとか,長時間労働であるとか,働き方に柔軟性が乏しい点が問題であろう。
 あるいは正規労働者と非正規労働者で二分されているが,非正規労働者の問題点は単に賃金が低いだけではなく,一旦非正規労働者になれば,正規労働者になりにくい点,雇用形態の選択が一方通行で柔軟性が低い点にある。正規労働者事務職でも性別により新中間階級と労働者階級に二分されている点はその点を端的に表わしているように見える(女性の,出産退社後の労働市場復帰は非正規雇用が多い)。
 逆に,貧困の問題は非正規雇用という雇用形態だけの問題ではない。実際の貧困は高齢者が多いように年金制度の問題(=保険方式による低無年金の発生)との係わりが大きい。

 新階級=アンダークラスの出現の主張に力点が置かれ,非正規,正規(=労働者階級+新中間階級)を通した問題が背景に退いている。これは別に橋本報告に対する感想ではない。非正規雇用=貧困論に対して常々感じていることだ。