2019年3月2日土曜日

先月のこと

 後期の採点と成績評価に目処が付いた付いた2月半ば,関心を抱いていた貧困問題(へのアプローチの仕方)について考えたことを綴ってみたが,自ら読み返してみても冗長。あれこれ書き換えてみてもスッキリしない,やはり冗長。その後,様々な用事に追われ,月を越してしまった,

そこで,解説をなるべく省いて,何をしたか,どう考えたか要点だけ記しておく。

1.昨秋の経済理論学会全国大会(14/10/2018,立命館大学びわこ・くさつキャンパス)の共通論題「転換する資本主義と政治経済学の射程---リーマンショック10年題」に違和感を覚えたのがきっかけ。
印象を一言で語ると,「全般的危機論」(失礼!)。

2.ようやく時間の取れた2月半ば,共通論題の報告の1つ,橋本健二氏の「現代日本における階級問題の変容」や同氏の『新・日本の階級社会』(講談社現代新書,2018)も読み返し,ノートを取ってみた。
上の違和感は橋本報告に対してではないが,階層・階級調査に基づく報告なので現状認識を検証しやすいと考えた。

3.「非正規雇用ーパート主婦」(2015年調査で928.7万人)は,端的には貧困率が高いという点で他の四階級(資本家階級,新旧中間階級,労働者階級)と異なる特徴を有するため,被用者ではあるが別の階級「アンダークラス」と規定されているが*,その具体的特徴を語る際には,「高齢者が多い」「女性では離死別者が多い」など生活保護受給者**の属性に寄せている感がある。
*労働者階級内に異質なアンダークラスが出現し,四階級が五階級化している,というのが氏のいう「新・階級社会」の意味。
**被保護者の世帯分類では高齢者世帯が5割を超えており,しかもその約9割が単身世帯。
4.他方,大学生の行く末である労働者階級や新中間階級に関する分析はアッサリしている。
氏の分類では,新中間階級は管理的・専門的職業従事者ばかりでなく,男性正規労働者の事務職も含まれる。したがって,アンダークラス以外の働者階級はブルーカラー正規労働者,女性正規労働者事務職,およびパート主婦となる。

 労働者階級は「ほとんど貧困とは無縁な」で済まされている感がある。
 もちろん,所得以外に,階層意識,支持政党を始めとする政治意識,仕事や生活に対する満足度等の調査結果も分析されているが,「雇用に伴う問題」は満足度などの単一の指標ではすくい取れないであろう。

 例えば,裁量労働制が適用されている職種もそうだが,そうでない職種はなおさら仕事における裁量性が乏しいとか,長時間労働であるとか,働き方に柔軟性が乏しい点が問題であろう。
 あるいは正規労働者と非正規労働者で二分されているが,非正規労働者の問題点は単に賃金が低いだけではなく,一旦非正規労働者になれば,正規労働者になりにくい点,雇用形態の選択が一方通行で柔軟性が低い点にある。正規労働者事務職でも性別により新中間階級と労働者階級に二分されている点はその点を端的に表わしているように見える(女性の,出産退社後の労働市場復帰は非正規雇用が多い)。
 逆に,貧困の問題は非正規雇用という雇用形態だけの問題ではない。実際の貧困は高齢者が多いように年金制度の問題(=保険方式による低無年金の発生)との係わりが大きい。

 新階級=アンダークラスの出現の主張に力点が置かれ,非正規,正規(=労働者階級+新中間階級)を通した問題が背景に退いている。これは別に橋本報告に対する感想ではない。非正規雇用=貧困論に対して常々感じていることだ。

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