2020年1月31日金曜日

三編の地域社会展望

 この2週間更新が途絶えたのは学務に追われた面があるが,その合間に地域社会の展望に関して相異なる三つの見解を追っていたからでもあった。

 キッカケは経済原論演習の後期テキスト,半田正樹他『原発のない女川』。
 テキストの大半,戦後日本の原発推進や反対運動,原発の地元への経済効果等,大半はさしたる議論も起こらず進んだため,最後の第4章「地域循環型社会を目指して」に関してはじっくり取り上げることにした。
 ちょうどゼミの時間に臨時会議が設定されたこともあり,2週間くらいおいて,参考文献にも当たったうえで報告する,という風に。

 第4章の著者である半田先生は,地域社会に関する様々な論稿を参考文献に挙げられている。
 ゼミ生にはそのうち神野直彦『地域再生の経済学 豊かさを問い直す』(中公新書,2014),第7章「知識社会に向けた地域再生」,同『「分かち合い」の経済学』(岩波新書,2010)第7章「新しき「分かち合い」の時代へ―知識社会に向けて」,関根友彦「グロバリゼーションと資本主義を超えて」(松原望・丸山真人編『アジア太平洋環境の新視点』第8章, 彩流社,2005),半田正樹「共同体的編成原理の射程」(『季刊経済理論』50-3,2013)を挙げ,自分自身でもノートを取ってみた。

 すると,半田先生が地域循環社会論のなかで参照を求められていながら,地域社会に関する展望はそれぞれ全く異なっており,興味深かった。学部生にはいずれも難しく,相互の認識,構えの違いまで抑えきれないかもしれないが,。。。

 神野先生の論稿は,農業から離脱し発展した工業化の,さらにその先に知識産業化を捉え,知識産業化すなわち人的資本への投資を,人的関係に基礎を置き,「分かち合う」地域社会と並列において,今後の社会の発展を地域社会に求めるものである。
 半田先生の「共同体的編成原理の射程」は関根先生の経済表に公共部門を付け加えたものである。すなわち,生産手段国有化という定式ではなく,純粋資本主義からの乖離を社会主義への移行段階,脱資本主義と捉える関根先生は,経済表上に財の再生産関係を表現することによって社会主義の現実妥当性を明らかにしようとされた。その三部門からなる経済表に公共部門を加えたのが半田論文だ。
 他方,半田先生の地域循環型社会論は純粋な自給自足型社会,共同体経済論だ。

 半田先生は地域循環型社会を論じる中で他の2つの論稿に参照を求めているが,3つは地域社会の展望について全く異なる,あるいは相対立する理解に立っている(個人的にはこのことに触れずに参照を求めるのは疑問を覚える)。
 地域純型社会とは農工一体論というか,農業をベースにした自給論だ。理想社会としての現実妥当性を生活資料が自給できることを以て示そうとしている。したがって閉鎖型社会になる。
 他方,神野先生の論稿にも地域社会の自立を訴える面があるが,発想としては農業社会とは全く逆だ。自然に直接働きかける農業から,自然をむしろ原材料として利用する工業化(農工分離)を経て,さらに人間に働きかける知識社会化を展望している。地域社会には食糧の自給に期待しているわけではなく,農工一体型の,地域循環型社会論とは真逆の展望に立っている。
 関根先生の経済表,あるいは半田先生の経済表はその中間だ。経済表上,主に最終消費財とされる質的な財を供給する地域社会部門は,地産地消型社会にも見えるが,主に中間財である量的な財は都市部門,大企業部門から供給を受けている(大都市部門には住民がおらず都市部門から労働力を受け入れ,その生産物を都市部門に返し,都市部門が地域社会に量的財=中間財を供給している)。関根経済表が地域社会に社会主義の展望を見出すのは,質的財=最終消費財の自給自足にあるのではない。確かに地域社会内での,顔見知りの間での需要供給関係に財の質への信頼感・安心感を求められている面があるが,社会主義的展望はむしろ地域社会部門が都市部門,大企業部門双方に土地用益を排他的に供給している点にある。すなわち,土地貸与を盾に都市部門,大企業部門の資本主義的暴走を牽制しようという発想である。地域社会を規制主体に据えているのは,それが共同体としての相互扶助を社会の編成原理として評価しているからとは言えるが,社会経済の規制,すなわち社会主義の展望はけっして共同体内に収っていない。その意味では自給自足論=地域循環型共同経済経済論ではない。農工はむしろ分離しており,それを一方で商業が他方で土地賃貸契約が結びつけているのである。
 このの相違に触れないのはももったいないと思う。
 視角の異なる論稿を相互比較し検討することによってこそ地域社会の展望に関する考察が深まるからだ。

 興味深いのはこれらの視角の相違以外に,それぞれに疑問を覚える面があったこともあるが,長くなるので今回は省略。

2020年1月20日月曜日

一息

 1月17日夜,東北学院大学経済学部「政治経済論II」のまとめシート2の採点を完了。
 毎回3点配点する確認問題と2回のまとめシートで評価しているから,来週の、最終講義の確認問題で
10日が締切りだったので,単位評価の素材はすべて揃うことになる。
 それでも,まとめシート2は10日が締切りだったから採点に1週間を要したことになる。

 この間中断していた連合山形『春闘パンフレット2020』の「経済指標の解説」原稿を20日午前投稿。こちらは官庁発表の経済指標を新聞記事等も参考に解説したもの。

 担当科目は他にもあり,未だ学期末処理は残っているとは言え,一番大きい(受講生が多く時間を要する)作業を終え,ホッと一息。

2020年1月14日火曜日

機微に触れる

 読書三昧,と言っても小説3冊の3が日の後はしばらく構想を練っていたが,休み明けの6日からは毎年請け負っている連合山形『春闘パンフレット』の「経済指標の解説」を執筆を再開。
 官庁公表の経済指標を新聞記事とと照合しつつ解説。
 但し,データによって公表時期がまちまちなので,最新データが未発表なものは翌週に残して書きつなげた。

 他方,先週末は,少し早めにオンラインで実施した東北学院大学「政治経済論2」のまとめシート2の採点。
 従来,期末試験は事前に問題の候補を2,3予告したうえで,最終日に行なっていた。
 しかし,予告したテーマが学生には上手く伝わらないことがあり,昨年度は事前に問題を記した答案用紙を配付し,最終日に回収する方式をとった。
 ただ履修学生が多数の場合,答案用紙を学生番号順に並べ変え,ワークシートに提出記録を入力する整理にけっこう時間が掛かる。
 中間試験,まとめシート1は以前からオンラインで実施していたが,今年度は前期の「政治経済論1」から期末試験に当たるまとめシート2もオンライン入力方式に切り替えた。
 この場合,「。。。について論ぜよ」「解説せよ」の論述式ではワークシート上でも読みにくいので,問題を小分けして,論点毎に20字以内,400字以内と字数を限定した記述式とした。
 しかし,字数を制限しても,記述式の場合,内容は学生により様々である。選択式問題ならば,正答肢と誤答肢を限定できるが,記述式はそれができない。たとえ,100字以内の問題でも,こちらの設定した採点基準と多少ズレた記述を正答とするか,部分点を付けるか判断に迷うことしばしばだ。また,採点している内にその判断がズレることもあるので,答案の読み直しを何度か行なう必要がある。つまり,短い記述式でも採点には時間が掛かる。オンライン出題の利点は集計作業くらいだ。

 今回も三連休費やして372名の採点を終えられず,結局3日目の夕方には作業を中断。
 ネットでインタビューを読んだ足立紳『喜劇愛妻物語』(幻冬舎文庫)。夫婦関係の機微にも触れ,頭の休養に充てた。

2020年1月1日水曜日

3が日

正月3が日は完オフ。
帰省先もなくなり,暇潰しに小説。
最近は気持ちに余裕がないのか,小説を読むのは盆休みと3が日くらい。

それが分かっているから,年末の恒例行事,る新聞の書評委員が選ぶ「今年の3点」を待って,数ある委員のなかから直感的に1名が挙げたた3点をアマゾンより取り寄せておいた。

3が日の内に読み終えられなかったらどうしよう?

昨年と変わらず

 田舎を引き払い帰省の宛がない正月は,元日昼前に大崎八幡宮に散歩し,3が日は完オフにして読書が習わしになっている。

と言っても,お賽銭を投げ鈴を鳴らすわけでは無いので,「参拝」というより参拝客の冷やかし。

今年は11時前だったせいか,賑わいもそこそこ。
母向けに求めたお守りは最も安い「守護みくじ」が二百円也。こちらも昨年と変わらず。





先人の知恵を