2010年10月5日火曜日

日経社説のすり替え

日本経済新聞は10月4日付けの社説「『有期労働』規制は雇用不安を広げる」で,厚労省労働政策審議会で今秋から検討が始まる有期労働規制策論を先取りして,懸念を示している。(審議会の議論のベースとなる研究会の報告では,「期限付きで契約を結べる仕事を一時的、季節的な業務に限ったり、契約の更新回数に上限を設けたりすることなど」の検討を求めている。)

パートなどを文字通り「一時的な仕事に限る」という規制の強化は,「契約期間に定めのある人たちの処遇が改善するかは疑問だ」。「人件費の増加を嫌い、正社員への登用は進まないのではないか」。「期限付きの契約を認める仕事を限定すれば、働けなくなる人が増えるだけ」との懸念を示している。
具体的には「企業は雇用契約を、更新の上限に達する直前で打ち切ろうとするのではないか。そうすると、これまで繰り返し契約を交わしてきたパート社員などは働き続けることができなくなる。」「契約を結べる仕事が限られ、非正規の労働力が使いにくくなれば、企業の海外移転がいっそう進み、国内の雇用がさらに減りかねない。」

一見もっともな懸念であり,以前から方々で指摘されきた。
しかし,2つ(更新規制と低コスト労働力)は問題が異なると同時に,その混同こそが非正規雇用問題の核心でもある。

規制案は長期に雇用されているのに,短期(有期)契約の更新で対処しているために生じる身分の不安定性を解決しようとするものである。しかし,企業は非正規雇用を有期雇用として利用しているだけでなく,低賃金労働として雇用している。
有期契約を更新している,実質的に長期に雇用している以上,「期限の定めなき雇用」(正社員)に切り替わっても実質的に問題はないはずである。しかし,正社員となることは賃金コストを文字通り引き上げることになる。日経は有期労働規制に懸念を示しながら,その実,後者に反対しているのではないか。

社説は最後に「正社員と同じような仕事なのに賃金が低い人は少なくない。期限付きで働く人の処遇の向上が大切なのはもちろんだ。それには原資となる企業の利益を増やす必要がある」と述べているが,賃金格差の解消は企業の業績と絡めるべき問題ではない。

賃金格差は非正規雇用との間だけでなく,性別,人種,民族間で起こりうる。
しかし,企業業績が芳しくないから業績が上向くまで,不景気だから好況に転ずるまで,格差はそのままでも仕方ない,と言い直せば,その不適切さは明らかであろう。むしろ戦後の日本社会は賃金格差を放っておいたために非正規雇用問題の解決を困難にしてしまったのである。
労働者派遣法の成立(1985年),大幅改正(1999年,派遣業種の原則自由化)が非正規雇用の利用を促進し格差を拡大したのは間違いないが,賃金格差,もっといえば労働市場の二重構造はそれ以前から存在した。それをそのまま放っておいたために,非正規雇用比率が3割を超えた時,問題が覆い隠しようもなく露呈したにすぎない。

0 件のコメント:

コメントを投稿