2010年11月23日火曜日

有期雇用改革の提言について

11月22日(月)付けの日本経済新聞,経済教室コーナーでは,鶴光太郎経済産業研究所上席研究員が「有期雇用改革、『量』削減より『質』の向上を」と題して労働市場規制のあり方を提言している。

要は,有期雇用改革に関して欧州の規制に倣うことへの反対と,それ代わる,有期雇用の量的増大を前提にした「質的」規制の主張である。

すなわち,1999年の欧州指令は,「期限の定めなき雇用」(無期契約)を基本とし(理念),有期契約締結の条件を一時的な需要増や季節要因に限定する入口規制と,有期契約の反復による乱用を規制する出口規制からなるが,既に有期雇用が増大している日本では欧州とは理念が異なるので欧州の規制をそのまま導入できない。実際,韓国では97年より出口規制(最長2年,2年を超えたものは向きと見なす)を導入しても正規雇用は増えなかった。そこで,有期雇用改革としては,有期契約の「量的」削減から「質的」改善を目指すべきである。具体的には,
  1. 「契約締結時点で更新可能性や更新回数を明示した有期雇用契約の多様なコース分けを徹底し、制度化することで、契約終了時の結果の予測可能性を向上させる」(有期雇用の不安定さや雇い止め問題への対応)
  2. 「正社員として採用するための試用期間を有期雇用契約として明確に位置付ける「テニュア(在職権)制度」を導入」する。
     現在は,試用期間が期間の定めのない雇用契約の中で位置付けられているため解雇権乱用法理が適用されるが,これを有期契約の中に位置付けることにより「企業側は正社員雇い入れリスクが低下し、結果的に正規雇用比率が高まる効果が期待できる」。
  3. 「雇用不安定への補償という観点からは、有期雇用の契約終了時に『契約終了手当』支払いを義務付けることも検討」する。

     これらは「有期雇用と無期雇用の間に中間的な雇用形態や処遇の仕組みを作ることで『間を埋め』、期間比例的な考えに基づき『連続性』を創出していく」氏のかねてからの主張に沿うものだそうである。

この提言に対しては,まず第1に,日本への欧州型規制への導入を拒否する論拠として,日本では非正規雇用の比率が高まっているため期限の定めなき雇用を基本とする欧州とは労働市場の理念が異なるとしていることに疑問を覚える。
非正規雇用の比率が高まったといっても33%前後,男性に限定すれば,20%未満に止まっているし,何より労働基準法が「合理的理由のない解雇は無効」としている点で期限の定めなき雇用(いわゆる正社員)を基本としていることは明らかであるからである(明文化されたのは2004年だが,判例上はその前から適用されていた)。
セイフティ・ネットを維持する面からも期限の定めなき雇用が依然として基本とされるべきであろう。

第2に,有期契約の類型を増やし労使双方ともに利用しやすくする,リスクを抑えること自体はもっともな主張であるが,その形式的合理性に隠れて,異様に長い有期契約,あるいはその反復更新が滑り込まないよう注意が必要であろう。仮に「異様に長い」有期契約,あるいは反復更新が続くのは,実質常用の有期的使用に他ならない。

第3に,しかし日本にとって最大の問題は,正規雇用と非正規雇用の賃金格差をそのままにしておいて,正規雇用の「量的削減から質の向上」といっても,質の向上には賃金格差是正が含まれないのでは,非正規雇用の増大は一層進行し,格差は拡大するだけで終わるだけであろう。
つまり,非正規雇用増大の原因は,新興国の興隆とともグローバルな企業競争が激化したり,技術革新の国際的浸透が早まり試製品のコモディティ化が進んだりすることによって,投資環境の再構築の期間がますます短期化し,労働市場も流動化せざるをえなくなった面(99年の労働者派遣法改正がそれを後押しした)と,もともと労働市場の二重構造により賃金等処遇格差が大きく,労働者派遣法で使いやすくなった非正規雇用を単に「安い」労働力として利用したという面,両面がある。


まず均等処遇を徹底した上でならば,短期的ないし有期的契約に多様な類型を整備し,「有期雇用と無期雇用の間に」「連続性」を創出していくことは労働者にとっても働き方に多様性を齎し,自ら育児,介護に携わる余地を拡大することにつながるわけだから,無下に否定するどころか,むしろ歓迎すべきことといって良い。

しかし,美しい改革の理念の下に,実態としての常用雇用の有期的利用が滑り込んだり,賃金格差の利用が温存されるのであれば,美名の実態を詳らかにせよ,優先順位に異議あり,とはねつけざるをえないだろう。

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