2010年11月29日月曜日

ベーシック・インカム拒絶症・その3

学生にはベーシック・インカムに対して否定的な意見が多い。
ベーシック・インカムの仕組みやその底にある発想,理念,あるいは現在の社会保障制度の問題点を調べた上でのことなら全く問題ないが,
ちょうど街角インタビューで「好きか嫌いか」を問われた時のように直感的に反応したのでは全く勉強にならない。大学生でも無学な者でも変わらないからである。

学生のベーシック・インカムに疑問を提起する時,持ち出すのが財源問題だ。

しかし,これも多分に昨今のマスコミの論調に引き摺られている面がある。

確かに日本の政府債務残高は膨大で09年12月末時点で約872兆円。名目GDPの約1.9倍に相当する,といわれている。
しかし,日本の場合はまだ国債を国内で消化されており,金利が急上昇する局面にはない。
現在の欧州金融機関のように,ギリシャやアイルランドの国債の償還に不安を持たれる状況---償還できなければそれらの国の国債を大量に抱える欧州主要金融機関が取り次ぎ騒ぎに合うだろうし,EUとして救済すればユーロが弱い通貨となり,保持する意味が薄れてくる---にはない。少なくとも日本では政府債務残高問題が「目の前の危機」となっているわけではない。
アメリカほどの経済不況ではないが,マスコミ報道も与って不況色が蔓延すると,財政再建を後回しにしても景気回復に努めた方が良いとさえ思えてくる。

その上で,実際の必要があれば,支出すべきであろう。
現に与党政権以外にも,マスコミや財界に賛同者が多い環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や自由貿易協定(FTA)に参加するならば,民主党がマニフェストで唱ったのか戸別所得補償制度どころの騒ぎではない。
農水省は,来年度の予算に,戸別所得補償制度分として1兆円弱を要求しているそうだが,TPPに参加となれば「少なくとも新たに年2.5兆円程度」必要になる,という(朝日新聞2010年11月20日付け)。
現にコメ輸入の関税化を決めた1990年代前半のガットのウルグアイ・ラウンド交渉を受けて、日本は農業対策に6兆100億円を」(同上)投じている。

そもそも「小さな政府」論者の中にベーシック・インカムに賛同している者がいるのはなぜか,考えてみる必要がある。

その点を見ようとしないで,現在の制度の延長線上にベーシック・インカムを捉えて賛否を表明しても,専門知識を全体としない街角インタビューの反応と変わらないのではないだろうか。

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