2012年5月24日木曜日

名は体を表わすとは限らない



先週,新聞各紙が後期高齢者医療制度廃止をマニフェストに掲げて09年総選挙を戦った民主党の廃止見直し案を報じた。
読売オンライン「後期高齢者医療、当面は存続…民主見直し案判明」によれば,「75歳以上を対象にした「後期高齢者医療制度」の制度名について、「後期」という単語を外して「高齢者医療制度」に改め、75歳以上のサラリーマン約33万人を現行制度から勤務先の健康保険に移すことが柱だ」。「法案は、自公政権時代にスタートした現行制度の一部修正にとどまり、民主党が2009年の衆院選政権公約(マニフェスト)で掲げた「後期高齢者医療制度の廃止」は事実上の棚上げとなった」。

しかし,この報道では「75歳以上のサラリーマン約33万人」については「後期高齢者医療制度の廃止」が実現するかのような印象を受ける。

そもそも後期高齢者医療制度とは何か。
それは,5月19日付日本経済新聞「後期高齢者医療見直し、民主の調整難航」が指摘しているように,「75歳以上の保険料と給付を区分管理するもの」だ。

旧老人保健制度は,独自の保険ではなく,高齢者が現役世代と一緒に加入していた被用者保険(健康保険,共済保険,船員保険)と国民健康保険(国保)が老人医療費を分担する財布に過ぎなかった。つまり,老人の窓口負担1割以外の9割について,半分を国,都道府県,市町村が4:1:1で分担し,残り半分を法人保健制度という財布を通して各保険が支えていた。この場合,窓口負担を除けば,高齢者と現役世代との費用分担が明らかではなく,現役世代から不満の声が上がっていた。

これに対し,期高齢者を被用者保険や国保から脱退させて,彼らだけを加入させた保険が後期高齢者医療制だ。
本人の窓口負担1割以外の9割について,半分を国,都道府県,市町村が4:1:1で分担するのはそのままで,残り半分を現役世代の保険(前期高齢者を含む)と後期高齢者医療制度とが4対1で負担するというように費用分担を明確にした点がミソだ。

民主党の当初の廃止案は,後期高齢者を国保に戻すものの,「75歳以上の保険料と給付を区分管理する」点は維持される。したがって,本欄ではかねがね「名ばかり廃止案」と呼んでいた。

したがって,「75歳以上のサラリーマン約33万人」について被用者保険に戻したところで「75歳以上の保険料と給付を区分管理する」点が廃止されないならば,後期高齢者医療制度の廃止とはとても言えない。にもかかわらず,被用者保険に戻す部分についての区分管理の存廃を明らかにしない読売の報道では「廃止案の見直し」が被用者保険以外のみであり,「75歳以上のサラリーマン約33万人」については見直しされず,後期これ医者医療制度が廃止されるかのような印象を与える。

では,どこが「廃止案の見直し」かといえば,後期高齢者を市町村単位で運営されている国保に移す際に国保の運営単位を後期高齢者医療制度と同様の都道府県単位に変更するとしていた当初案が「全国知事会が「都道府県の財政負担が明確でない」などと反発し」(日経)ていることを承け,運営単位変更が棚上げされている点にある。この点を読売オンラインは明確には指摘していない。

つまり,民主党の後期高齢者医療制度廃止案とは,「75歳以上の保険料と給付を区分管理する」点が核心である後期高齢者医療制度の廃止ではなく,国保の運営単位を現行の市町村単位から都道府県単位に広域化する点に特徴があり,むしろ「国保改革案」と呼ぶのが相応しい。この点は日本経済新聞でも明確ではない。

では,なぜ「国保改革」かといえば,
「09年度時点で約1700ある国保の5割はすでに赤字」で「市町村は一般会計から国保に合計で約3600億円を赤字穴埋めのために投入している」状況で,かつ「国民健康保険(国保)の加入者のうち、高齢者(65~74歳)の割合が2020年度に37%と4割に迫る見通しである」ならば,「運営を市町村ではなく都道府県に広げることで財政基盤の安定を狙う(日経11/03/29)ことは,「75歳以上の保険料と給付を区分管理する」後期高齢者医療制度と同様,当然けんつされるべき変更であるからであろう。

マスコミの後期高齢者医療制度廃止案に関する報道は,「自民党は現行制度の維持を主張しており、廃止案を提出すれば消費増税関連法案の審議にも影響しかねないという事情」(日経)から民主党政権内でも廃止見直し案がまとまっていない,と政局報道に偏重している。
与野党の攻防を伝えるあまり,廃止案の根幹が後期高齢者医療制度の廃止ではなく,国保の運営単位の見直しである点が看過されている。

「名が体を表わす」とは言えないのが現実の世界である。
名称の如何に関わらず,現行制度のどこを変えようとしているのか正確に伝えるのがマスコミの役割であろう。

 5月22日,5月23日と講義と講義準備で終わる。
 5月24日 前日破損したコンタクトレンズが保証期間内だったため交換。その前後にスタバ逗留。

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