2011年8月11日木曜日

雇用ポートフォリオ論の理解

研究合宿に参加していて
自分は周囲とかなり考え方,現実経済へのスタンスが異なると感じた。
例えば,格差問題の原因。
1999年に労働者派遣法が改正され,派遣業種の原則自由化が非正規雇用増大の直接の契機になったことは否定しないが,格差問題の淵源は別にあると考えている。差別的賃金はそれ以前から存在したからだ。

また雇用流動化と旧日経連が95年に発表した『新時代の「日本的経営」』との関連。



同書の「雇用ポートフォリオ」論が雇用流動化の呼び水をなしたとされることが多い。


しかし,
雇用流動化は日本だけではない。世界経済全体のトレンドだ。
同ポートフォリオの特徴は,専門職「高度専門能力活用型グループ」の創設だと思われるが,未だにそれほど広がっていない。
「雇用柔軟型グループ」といっても非正規雇用者の比率は33-34%止まりだ。

リーマンショックでさらに非正規雇用比率が高まったという声は聴かない。
今春の大卒の就職率は低かったが,来週は採用増を計画している企業が多い。(「大卒採用13.7%増」6/20付日経)
ポートフォリオでは「一般職」は「雇用柔軟型グループ」でその賃金は「時間給制,職務給,昇給なし」,賞与「定率」(32p図表8)となっているが,企業は「時給制で昇給なし」として募集をかけていないし,大学生も昇進するまで初任給のままでは誰も応募しない。
13.7%も採用が増えるのは依然として年功的社員だ。

結局,企業は労務管理の一手法として「勤続昇給=正社員中心システム」を手放せないということだろう。

それだけではない。
ポートフォリオの流動層「雇用柔軟型グループ」は勤続昇給しないだけだが,
現実の非正規雇用は端から賃金格差に見舞われ,賞与(ボーナス)は「定率」どころか「ない」。

賃金格差は正社員の勤続昇給(単なる企業特殊熟練を超えた年功賃金)や
主婦パートを「家計補助的労働」(男性正社員は年功的だが長時間労働)と位置づける両性の働き方と表裏一体だから,
その見直しは労働組合を巻き込んで正社員の賃金構造見直しが不可欠である。
あるいは企業の年功賃金が国の貧弱な社会保障制度の補完物とみるなら,後者の見直しも不可欠だ。
しかし,それには踏み込まないでは流動的だが「職務給」(同一労働同一賃金)で賞与も「定率」保障された「雇用柔軟型グループ」は誕生しないのである。
(13/08/16最終段落補足)

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