2013年4月14日日曜日

政策論議は難しい

一昨年冬,三大学合同ゼミでTPP問題を扱った時,討論の基調がTPP反対論一辺倒であったため,最後の講師講評の場で「むしろTPP賛成の方向で考えても良かったのではないか」と述べた。

現実問題として米国中心の貿易体制に組み込まれている以上,
米国の主張するTPPを所与としてその問題点を考え,対策を考える方向もあっては良いのではないか,と思ったからだ。

その後,民主党政権は首相がTPP参加を主張するばかりで党内まとまらず,
基本的にTPP慎重ないし反対の自民党が昨年暮れの総選挙で圧倒的多数を獲得した。

選挙が終わってみると,安倍首相のTPPへの前の森姿勢は一層露わになった。
安倍晋三氏は野党時代から「日米関係の大切さと,民主党政権の交渉力無のなさ」を訴えてきたからそのこと自体は不思議ではない。
問題は総選挙でTPP反対を信じて自民党に投票した有権者を納得させるため米国からどのような譲歩を引き出すか,であった。

ところが,12日公表された米国との事前折衝の合意文書によると,
・「聖域」輸入農産物にかける関税が維持できるかは不明
・米国系保険会社が3割のシェアを占めるガン険への簡保の参入は当面不可
・日本から輸出される自動車にかけられる関税は最長期間(10年以上)維持される
(他方,米韓FTAでは16年度から韓国車への関税廃止)

TPP参加の条件は保証されず
TPPのメリットとされたことは実現の見込みがなく
これまでTPP参加を訴えてきた陣営からも
「TPP 危うい国益」(朝日新聞4月13日付)
「急いだ合意 目立つ譲歩」(日経同日付)
日本自動車工業界の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)も「関税の撤廃時期については残念」という始末。

もちろん「日本の主張 本交渉で」(日経)と,なお期待をかける主張もあるにはあるが,
「経済官庁幹部は「(もはや)米国から取れるものは何もない。日本の姿勢を認めてもらうということだ」と開き直る」(朝日)。もはや米国から忠誠心を評価して貰うことぐらいしかメリットが見出せないようだ。

経済政策の影響,そのメリット,デメリットについて検討し,意見を交わすことは経済学を勉強する学生にとって大いに意味があると考えられるが,
現実の場で交渉力の乏しさを見せつけられると,
デメリットを検討しても,国際的には対応のしようが無いことが明らかになり,
賛成,反対のディベートを設定すること自体,無意味に見えてくる。

せめて選挙運動の何分の一くらいの,丁々発止の遣り取りを見せて欲しいものである。

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