2024年2月1日木曜日

最終講義として

  1月26日,最終講義を行なった。
 15回のテーマの内,どこかを空けて,最終講義とした。
 何を話そうかと迷って「現代のワーキングプア」とした。
 当初は,経済原論における貧困の位置付け(絶対的窮乏化なのか循環的貧困なのか)から発展段階論(労働者の富裕化や企業定着化,熟練・不熟練の別,正規・非正規の別)を踏まえて現状分析へとつなげるべきだが,不勉強と時間的制約のため,現状の話にした。
 また格差と区別して貧困に絞った。自立して(保護がなければ)生活できないというのが貧困とすれば,格差は是正しなけばならないとは言え,格差があるだけでは自立できないとまでは言えない。
 あるいは「生活の遣り繰りが大変」レベルは今までと変らない。子どもを大学にやる,仕送りするのは労働者にとっては以前から大変だった。

 その意味での貧困をワーキングプア論を手掛かりに解説してみた。

 話が長くなるので粗筋のみ述べると,

  1. 後藤道夫のワーキングプア論は,ワーキングプア拡大の背景を,日本型雇用の解体・縮小による「現代のワーキングプア」発生に求める点に特徴がある(90年代までのワーキングプアは日本型雇用の枠外,「周辺的」存在だったとして)。
    しかし,日本型雇用の特徴,解体の判別基準を新卒一括採用,長期雇用,年功序列型賃金に用いたたために,2019年の論文では「現代のワーキングプア」を賃金の年功性が失われた男性ブルーカラー職業群に限定することになった。
    つまり年功性が維持されているホワイトカラーは除外され
    女性労働者は視野の外に置かれている。
    もともと「日本型雇用の範囲を100人以上規模企業の男性正規労働者と男女正規公務労働」とされていたため,働く女性の貧困は,日本型雇用とは無関係な旧来型のワーキングプアということになる。
  2. 橋本健二のアンダークラスは相対的貧困率を指標にすることによりワーキングプアの中心に単身女性がいることを浮かび上がらせた。
    まず労働者階級は賃金によって自身と子息の再生産が可能な存在であるのに対して,非正規雇用は再生産不能な賃金しか得られないとして労働者階級から分離し,アンダークラスと位置付けた。
    後藤のアンダークラスとは非正規雇用から学生や家計補助的な労働に止まる主婦パートを除いた900万人余りである。
    そのアンダークラスの中でも,高齢者や59歳以下の男性非正規労働者に対し,59歳以下の女性(すべて非婚女性)はより一層貧困率が高いことも明らかになった。
    しかし,非正規雇用であれ,なぜ賃金では自身と子息を再生産できないのか,は明らかではない。
  3. 他方,最低賃金に関する資料によれば,賃金の特に低い,最低賃金近傍者(最賃の1.1倍水準まで)は,一般労働者(フルタイム)よりも短時間労働者,短時間労働者の中でも女性労働者に多い。
  4. これは男性長時間労働,女性短時間路務言う「男性片働きモデル」という意味での日本型雇用が依然として健在であることを示しているのではないか。
    つまり「現代のワーキングプア」とは非婚女性,その4割がシングルマザーであり,日本型雇用の解体によって生じたのではなく,その残存によって存在が作り出されているのではないか。



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