5月25日,26日は青山学院大学にて社会政策学会第126回大会。
初日共通論題のトップバッターはかつての同僚,遠藤公嗣明治大学教授。
「「1960年代型日本システム」から新しい社会システムへの転換」
青山学院大学17号館6F本多記念国際会議場(13/5/25)
配付資料ではわざわざ「引用は自由」と断ってあるので,自分なりに要約して紹介しよう。
(報告では省略されたり,こちらが聞き漏らしたりしたこともあるので資料によった)
先生の言われる「1960年型日本システム」では,
高度成長期,追加労働力として,かつ景気循環の調整弁として非正規雇用が利用された。
正社員は雇用が守られる代わりに長時間労働が強いられた。
また正社員の年功序列型賃金の裏面として,女性パート,学生アルバイトは「家計補助駅労働」として
不安定雇用かつ低賃金を強いられた。
遠藤先生によれば,このようなシステムは「機能不全」に陥っている。
第1に,企業は非正規雇用の低賃金に着目し,正規雇用を非正規雇用に代替し始めた。
景気循環の調整弁(先生は「雇用調整プール」)としての活用ではなくなった。
非正規雇用の拡大はプールとしてではなく「日本的雇用慣行のつまみ食い」である。
第2に,「日本企業がブラック企業化」した。
日本的雇用慣行は年功序列型賃金,安定雇用の代わりに正規労働者に過重労働を課していたけれども,
過重労働だけでその対価を支払わなくなった。
第3に,ワーキングプアの一人親の増加。
第1,第2が企業の変質であるのに対し,家族形態多様化の反映である。
このような現状を前に,「非正規雇用の正社員化」を求めるなど「1960年が二音システム」への復帰を求める傾向があるが,その現実基盤は喪失しているから「実現しない」し,「実現すべきではない」というのが先生の見立てである。
実現しない理由は3つ。
・人口減少もあり,高度成長が望めず,企業は多数の労働者を長期雇用できなくなった。
・製造業からサービス産業,情報産業への転換は長期雇用による能力開発のめりっとを失わせた。
・女性労働や外国人労働など,労働者の能力を活用しないことのデメリットがました。
「実現すべきでない」とする価値判断は,
「1960年型日本システム」はそもそも差別を含むシステムであった,という認識による。
「1960年型日本システム」への復帰を求める代わりに,
「新しい社会システム」として遠藤公嗣先生は
職能給による年功序列型賃金から「職務基準雇用慣行」への転換
男性稼ぎ手も出るから「多様な家族」容認モデルへの転換を提唱されている。
(「注意すべきことは,「職務基準雇用慣行」と「多様な家族」とは,相互に結びついているのではない。両者は相互に許容できるという組み合わせである」として,そのあと,職務基準観光の概要とその基盤となる「同一労働同一賃金」による職務評価の手法などが解説された。先生は某産別が行なっている職務評価システムの取りまとめ役を務められ,その成果は今秋刊行予定とのこと。)
報告資料では「新しい社会システム」の利点が5点紹介されている。
1)現在の非正規雇用に当たる労働者の処遇が改善される。
「職務基準雇用慣行」は適切な職務評価を前提にしているため,非正規雇用と正規雇用を区別する理由がなくなる。またその前提として雇用差別禁止法システムが組み込まれる。
2)同様の理由で女性労働者の処遇が改善される。
3)労働者は,過剰労働を抑制するための道具が得られる。
「職務基準雇用慣行」では,雇用契約に際し,職務明細書を労働者と交わすからである。
4)労働者は,男女とも,短時間雇用や雇用中断を実施しやすくなる。
育児や介護,また不況時のワークシェアに利する。対照的に日本型雇用慣行での雇用契約が正規労働者という身分設定契約であった,と。
5)女性労働者と外国人労働者の能力活用を拡大できる。
以上のようなお話しにこちらも頷くこと多かったが,疑問点を2つ。
「日本的雇用慣行」でいう景気変動の調整弁,先生の言われる「雇用調整のプール」は家計補助的労働と位置づけられた女性労働者ではなかったのではなく,男性労働者ではなかったか。
というのも,雇用調整時の労働投入量削減対象は,まずパートタイム労働者よりもフルタイム労働者であろうから。
またかつての女性一般職ではなく,男性社員,あるいは男性下請会社社員であったろうから。
確かに女性一般職には結婚退社の風習があったもののの,それは好不況に関係ない慣習であり,不況期の雇用調整ではない。
このことに関連して,
第2に,「職務基準雇用慣行」は雇用調整における解雇序列という意味での差別性には効力を発しないのではないか。
素朴な言い方をすれば,「職務基準雇用慣行」は現在政府が検討している「限定正社員」と同じ発想ではないか。
「限定正社員」は,有期契約ではないという意味では,正社員であるが,
職務限定契約であるために,その職務がなくなれば(工場転出,事業所撤退),解雇が正当化される。
職務基準雇用慣行にいう「雇用契約に際し,職務明細書を労働者と交わす」のはこの限定正社員のことであろう。
経済のグローバル化で,事業再編成が繰り返されかねない時に,職務限定はそのままでは「真っ先に解雇される正社員」を産み出すことになりかねないのではないであろうか。
もちろん権限の乏しい平の社員にまで長時間労働を強いる,あたかも身分契約のような遣り方が良いはずはない。
是正が必要であることは言を俟たない。
だからといって,職務限定契約で問題が解決するとも言えない。
「職務限定が解雇事由となりうる制度」と「身分保障が厚い代わりに職務無限定な制度」とは二者択一ではなく,
社会によって,国によって,選択の幅が大きいのではないだろうか。
2日目,26日は,欧州の家族政策に関する分科会(ユニバーサルな家族手当が普及している欧州各国でも,所得制限の波が押し寄せている,という),と午後は労働組合分科会で,企業別労働組合に関する報告拝聴。
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