2019年4月21日日曜日

特集企画

  3月まで学会誌編集委員を務めていた。
 編集員は,投稿論文について査読者2名を依頼し,その審査結果をまとめて委員会に最終審査結果を報告する,新刊の書評者を依頼する等の,3カ月に1回の業務の他に,任期中に一度だけ特集企画を担当する業務が割当たる。

 自分の担当は,今年7月20日刊行の56巻2号であり,昨年6月委員会で「多層化したこんにちの労働」というテーマを提案し,4名の方に執筆の打診をした。
 9月委員会で最終提案し,10月に編集委員長より執筆者に依頼を出した。

 もう半年も前になるが,企画書は以下の通りだ。
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◆テーマ:「多層化したこんにちの労働

 人口減少を迎えた日本では,経済成長の維持という観点から女性や高齢者の就労,労働生産性の向上を唱える声が大きい。こうした女性や高齢者への就労要請は,同時に,しばしば彼らが担う非正規雇用職の正社員との処遇格差問題,および働き方の多様性に関心を集めることにもなる。

政府の「働き方改革」でも,非正規雇用の正社員との格差是正を名目に同一労働同一賃金原則の適用が目指されると同時に,労働生産性の向上を目的に,プロフェッショナル制度の導入や(データ不正により今回は法案化が見送られた)裁量労働制の適用拡大が求められている。もちろん,こうした制度改正に対しては,客観的な職務評価を欠くという批判や長時間労働を助長するという懸念も根強い。しかし,同時に,その背後に,非正規雇用の数的増大とも相俟って,職場にはさまざまな形態の労働があり,一方で雇用形態は異なっても同じ仕事に就く同質的な労働があり,他方では同じ雇用形態でも権限と仕事の範囲が異なる異質な労働があるという認識が芽生えているのは確かであろう。

同一労働同一賃金原則の適用が話題にされる場面では,非正規雇用は正社員と同じ仕事に携わりながら,相対的に低い賃金しか与えられないなど,労働の同質性に焦点が当てられる反面として,同質性を超える部分が見落とされがちとなる。職場にあるさまざまな職務の間での労働の同質性の程度,範囲を知る必要がある。

労働の異質性は,職種間のヨコの違いばかりでなく,タテの違いもある。単純労働を超える労働には特別の訓練を要する複雑労働もありうるし,裁量性の高い労働もありうる。もちろん,それらの理論的把捉には,実際の職場におけるさまざま労働の職務の範囲や権限の広狭などについての実態分析が求められており,労働過程論,生産過程論に立脚した「労働の二重性」という視点からの考察も必それらの実態を踏まえる必要があろう。

以上は,タテにもヨコにも多様化した労働へのアプローチであるが,賃労働に限定した話である。賃労働を支え,また支えられる家庭内の諸活動も,労働の多層化に伴い変化せざるを得ない。例えば,世帯員による賃労働と家内労働の分担見直し,長時間労働と短時間労働の切り替え,あるいは家族によるサポートと外部サービスの切り替えないし分担等々である。市場における労働に限定せず,人間生活や共同体の維持という観点から人間活動と賃労働との重層的かつ広範に亘る結びつきやその変質についての考察が求められる。

以下,一つ一つのテーマと論文依頼者紹介は省略するが,
・職務分析による職務評価(職務評価からみた同一労働)
・裁量労働の理論的位置づけ
・熟練労働
・賃金労働と再生産労働
という4つのテーマで4名の方に論文執筆を依頼した。

添書き

 先週ようやく時間が取れ,抜刷を送る際の添書きと袋詰め作業を行なった。
 以下はその時の添書き
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 半田正樹東北学院大学名誉教授の退職記念号(東北学院大学『経済学論集』191,ご退職は昨春)に寄せた論稿「企業内養成熟練と勤続昇給」をお届けします。

 勤続昇給の有無は,正規雇用,非正規雇用間の賃金格差を齎している要因の1つですが,その勤続昇給をもたらす労働の理論的位置付けを試みた論文です。

この論文では,
 生産的労働・不生産的労働概念と価値形成労働・価値非形成労働概念との区別により多様化ないし多層化する労働の理論的位置付けを試みた私の研究の延長線上で,価値非形成労働の具体的内容を検討し,複雑労働に求めています(第1節)。

 また「特別の訓練を要する」複雑労働に関わる議論から型づけ労働と調整労働を取り出し,入職前に訓練を要する一般的熟練と,入職後の経験や訓練によって培われる企業特殊熟練との違いを見出し,勤続昇給する労働を後者に求めています(第2節)。

 さらに,「技能養成を誘発する」賃金制度に関する議論を検討して賃金の等級制度を抽き出し,具体的な等級制度の設計にも触れています(第3節)。


 位相の異なる論点を組み込んだのため,読みにくいかと存じますが,
ご笑覧頂ければ幸いです。

 2019年4月

2019年4月15日月曜日

カムバック

 タイガー・ウッズではないがカムバックする。

 といっては大げさ。
 先月末,研究会と研究合宿とハシゴして,そのまま月初めから新学期の行事が続いた。
 さらに合間に年休を取って駆けつけた東北楽天イーグルスの地元開催し合いで風邪を引いて週末寝込んでしまった。
 治ったと思って授業準備にしていたら風邪がぶり返した。
 というツマラナイ日々を送っていたのだ。

2019年3月24日日曜日

目処がつくのか

 3月17-24日 スライドを作成していた。
 1つは,月末の八王子合宿での報告「熟練養成と賃金制度」のスライドだが,もう1つは先行きのテーマに関すること,あるいはもっと大きいテーマに関するスライドだ。

 報告では,これまで生産的労働概念を基軸にこんにちの多様な労働を整理してきた中で,商品サービスを供給しながら価値を形成しない労働を「もう1つの労働」として,賃労働の一類型として位置づけ,技能形成を促すのはどのような賃金形態か,またその賃金形態が現実の場で齎す非正規雇用の正規雇用との賃金格差を生み出す原因にもなっていることを解明しようとするものだ。

 しかし,従来の生産的労働概念再検討による多様な労働の理論的位置付けという自分のテーマからすれば,いささか小さな話だ。
 こんにちの多層化する労働の把捉につながる視角をより一層明確に打ち出そうとしているのが2つ目に取り組んだスライドのテーマだ。
 しかしながら,今以て形を見ていない。
 否,スライドの形で何でも作り替えているが,未だ説得的ではない。
 短い春休みのうちにもう少し目処を付けたいところだ

編集委員任期満了

会場となった駒沢大学246会館
16年12月から学会誌『季刊経済理論』の編集委員を務めてきたが,10回目の3月16日 の委員会で任期満了。

 編集委員会は,3カ月に一度開催され,毎回,投稿された論文の審査報告,直近に投稿された論文の担当者割振りと審査委員の提案,編集部に寄贈されたり推薦されたりした図書の書評者の提案,特集企画の提案を行なってきた。
 論文の審査報告といっても,依頼した2名の審査委員の報告書をまとめたうえで報告するわけだが,2名が揃って指摘する箇所もあれば,見落とされていると思われる箇所もあるので,補いつつ審査報告書を作成して報告している。
 その論文の担当は,上記のように,委員会内で分担したり,任期終了した委員の担当を引き継いだりしているが,必ずしも自分の専攻,主テーマとピッタリ一致するわけではない。編集委員は10名と限られており,基本的に全体を見る委員長と副委員長は外れるので,実際には8名で分担することになるからだ(副委員長がリリーフ参加するときもある) 。

 2年3カ月の間,自分の担当も含め,様々なテーマ,手法の研究に触れることができた事は,狭い範囲で研究しがち自分にとっては大いにためになった。
 今後の活動に活かしたい。

2019年3月10日日曜日

フォーカスのズレ

 この2週間,専ら学会の仕事に専念していた。
 目処が付いた今週末,ようやく八王子で開かれる研究合宿での報告「企業内養成熟練と賃金制度」の報告資料づくりに取りかかった。
 難航しているのは,元々の論文が難産の果てに産み出されたからだが,それは繰り返しになるので割愛^^;

 元々はこんにちの多様な労働とその処遇問題をどう捉えるか,という問題意識がある。
 一方に,日本企業は従業員の雇用が守られ,年功賃金のメンバーシップ型だが,女性の社会進出により企業本位の長時間労働は難しくなったし,低成長によりそのカバーできる範囲が狭まり,格差の激しい非正規雇用が若年層を中心に広がった。今後は,メンバーシップ型から職務に応じた処遇ないし企業組織,ジョブ型に切り替えるべきであり,幹部候補以外は職務と昇給が限定された限定正社員になる,という見方がある。
 この場合,職務ベースであってメンバーシップ制ではないから企業からの自立性が高く,会社人間ないし社畜的に私生活(どころか生命)を捧げること(過労死,自殺)もなくなる,ということであろう。

 会社人間,まして過労死・自殺を擁護するわけではまったくないが,上の認識の底に,かつての産業別労働組合に集うブルーカラーのイメージが念頭に置かれていないか,という疑問がある。流動性が高く,当然会社から自立している。
 
 しかし,こんにちの日本では非正規雇用も勤続期間が長い。
 『パートタイム労働者総合実態調査』(H28)によれば,その67.5%は有期契約であり,平均契約期間9.6ヶ月,平均更新回数9.2回である。非正規雇用にも同一企業への勤続傾向が認められるのである。元々勤続初給は日本だけの傾向ではない。しかし,その間の技能・知識の集積は認めれず,勤続昇給していない。

 不熟練労働者か,熟練労働者でもその技能・知識に企業特殊性がなく勤続昇給することもない,離職のコストを意識しないから企業からの自立意識の高い労働者か。
 企業への忠誠という意味ではなく,勤続昇給の傾向があり,離職しないわけではないが,離職のコストも意識している労働者か。
 こちらの関心は後者にある。教壇に立つ大学の卒業生のほとんどは後者になる,という認識があるからである。
 

ゆかりある場所で

 3月5日 午後,山形市漆山のポリテク山形にて「高齢・障害・求職者支援機構山形支部」の今年度2回目の運営協議会。
 3コーナーに分けて事務方より今年度事業計画の実施状況,来年度の事業計画の説明があった。当初,説明が終わっても特に質問もなく次の説明が続くという体だったが,全ての報告が終わると,委員から矢継ぎ早に質問が出され,事務方が丁寧に答え,滞りなく終了。

 漆山と言えば,退職前に癌に罹患した鈴木均教授(欧州経済論)が定年後,「晴耕雨読」の終の棲家として選ばれた土地だ。その先生も1年前の1月半ば逝去。改めて黙祷。